はじめに
住宅ローンの返済は20年、30年と続きます。
「できるだけ返済額を減らしたい」「完済までのリスクを減らしたい」とみなさん考えますが、具体的にどのように住宅ローンを選べばよいか分からない方も多いのではないでしょうか。
住宅ローンで決めることは金利だけではありません。
- 金利タイプ
- 団体信用生命保険(特約)
- 返済方法
- 返済期間
- 金融機関
この記事では、完済までのリスクと総返済額を少なくする住宅ローンの選び方について解説します。
著者 | 吉満 博(よしみつ ひろし) ※株式会社あつみ事務所 代表 |
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公式サイト | 神戸阪神間の住宅購入・住み替えサイト |
資格 | 宅地建物取引士、2級FP技能士、住宅ローンアドバイザー、相続実務士 |
X(旧Twitter) | @atsumi_office |
住宅ローン返済リスクに備える方法
長期間の返済を前提とする住宅ローンは、返済期間中、金利上昇によって返済額が増えるリスク、さらには返済自体が困難になるリスクがあります。
住宅ローンを利用する方の約8割が変動金利タイプを選んでいます。変動金利は他の金利タイプと比べ金利が低い反面、金利上昇のリスクがあります。
これまで日銀の金融緩和政策を背景に低金利の状況が続いてきましたが、2022年12月には長期金利の実質利上げがあり、金融緩和政策は出口を模索している状況です。
長期金利と連動しない変動金利は今なお低金利が続いていますが、将来の金利変動は踏まえておく必要があります。
参照:令和4年度 民間住宅ローンの実態に関する調査(国土交通省)
金利上昇リスクに備え、少なくする方法は次のとおりです。
- 金利上昇の影響を知る
- 固定金利を検討する
- 借り過ぎない
- 団体信用生命保険を含めた住宅ローン選びをする
金利上昇の影響を知る
金利が上昇したときの返済額アップ、家計への影響は、借入金額、返済負担率によって変わります。返済負担率とは、年収に対する年間の住宅ローン返済額が占める割合です。
ですので、まずは金利上昇した場合、家計へどれくらいの影響があるかシミュレーションすることが大切です。
金利上昇した場合の返済額や返済負担率への影響を事例でご紹介します。
金利上昇と返済額への影響
【事例】
●借入金額:3,000万円・4,000万円
●借入から5年後に金利上昇(1%・1.5%)
●返済期間35年・元利均等返済・ボーナス返済なし
●年収:600万円(5年後650万円※約2%/年上昇想定)
借入金額 |
3000万円 |
4000万円 |
金利上昇前 |
77,875円 |
103,834円 |
1%上昇 |
89,830円 (11,955円増) |
119,774円 (15,940円増) |
1.5%上昇 |
96,207円 (18,332円増) |
128,276円 (24,433円増) |
借入金額が大きいほど金利上昇の影響は大きくなります。
必要な教育資金や老後資金のための貯蓄ができるかなども含めて家計への影響を確認しましょう。
金利上昇と返済負担率への影響
次に金利上昇で返済負担率がどのように変わるか試算しました。
借入金額 |
3000万円 |
4000万円 |
金利上昇前 |
15.6% |
20.8% |
1% |
16.6% |
22.1% |
1.5% |
17.8% |
23.7% |
返済負担率の1つの目安は20%以内です。
事例の4000万円借入のように、当初から20%を超える返済負担率の場合、金利上昇による家計への影響は大きくなりやすいといえます。
こういったシミュレーションは、金融機関ホームページの住宅ローンシミュレーションなどでもできますし、検討する住宅ローンの担当者に相談すれば試算してもらえます。
また、ここでは金利上昇を1%と1.5%と想定しましたが、もちろんそれ以上の上昇もあり得ます。
ただ、現在の変動金利と固定金利(全期間固定)の金利差を考え、1〜1.5%の上昇を想定しましたが、それ以上の金利上昇に備えたいのであれば固定金利を検討すべきでしょう。
固定金利を検討する
金利上昇のリスクを完全になくには、変動金利より金利は高くなりますが、返済期間中金利が変わらない全期間固定金利を選ぶ方法があります。
ただ、金利は上昇しない、もしくは上昇しても大きく上がらない可能性もありますので、金利上昇は気になるものの変動金利の低金利も捨てがたいと多くの方が悩まれるます。
では、変動金利と固定金利で迷った場合どのように決めればよいのでしょうか。
この場合、変動金利と固定金利の金利差から考えましょう。
現在(2023年9月)の金利水準をいうと、変動金利で0.3%台〜、固定金利(全期間固定金利)で1.0%台〜という状況です。
地域によって固定金利に力を入れている金融機関で1%を切るところもありますが、おおよそ変動と固定の金利差は0.7%〜となっています。
仮に4,000万円を借入した場合、変動金利と固定金利の返済額の差は下表のとおりです。
※35年返済・元利均等・ボーナス返済なし
変動金利(0.3%で試算) |
100,337円 |
全期間固定金利(1%で試算) |
112,914円 |
返済額の差 |
12,577円 |
変動と固定の返済額の差は12,577円/月となりますが、この差は変動金利の金利上昇リスクに対する保険と考えることができます。
つまり、毎月これだけの保険料を払っても金利上昇に備えたいと考えられる人は固定金利タイプが向いているといえるでしょう。
将来の金利動向は専門家でも予測は困難です。
上昇の仕方によっては固定金利を超える可能性もありますし、ほとんど金利が変わらないかもしれません。
ただ、これだけの返済額の差でも金利上昇に備えたいと考えられるのであれば、固定金利を選択しても後悔することはないでしょう。
借り過ぎない
住宅ローンを借り過ぎないことです。
今は、土地、建物(物件価格)だけでなく、仲介手数料や登記費用など諸費用含めて借入ができますし、夫婦ともに収入があればペアローンや収入合算で借入額を増やすことができます。
ただ、希望する家を買うことができても、借り過ぎに注意しなければなりません。
借入できる金額と無理なく返済できる金額は同じではありません。
無理のない借入金額を知る1つの方法はライフプランを作成することです。
家を購入したあとの収入や支出の見通し、購入後の維持費など含め家計の収支や貯蓄推移を客観的に把握できます。
住宅会社や不動産会社とは独立した立場のファイナンシャルプランナーなどに依頼するとよいでしょう。
団体信用生命保険を含めた住宅ローン選びをする
金利上昇ではありませんが、長期間に及ぶ住宅ローン返済では、会社の経営状況悪化や健康面の悪化による収入減少なども考えておく必要があります。
リスクに備える方法として、団体信用生命保険(以下「団信」)の特約や保険の活用があります。
団信は、住宅ローン契約者に死亡や高度障害など万一があった場合に住宅ローンが完済される保険ですが、一般的な団信以外にさまざまな特約付団信があります。
現在の低金利状況下では、各金融機関の金利差が小さくなっていますので、住宅ローンを選ぶ際には特約付の団信も含めて決めることが大切です。
がん、3大疾病、8大疾病、就業不能、長期入院など金融機関によってさまざまな特約付団信があり、夫婦で加入できる夫婦連生団信もあります。
これら特約付団信は金利の上乗せがありますので、各金融機関の保障内容と上乗せ金利を比較してリスクに備えましょう。
住宅ローン返済額を少なくする方法
次に、住宅ローンの返済額を少なくする方法について解説します。
- 複数の住宅ローンを検討する
- 元金均等返済を選ぶ
- 金利交渉する
複数の住宅ローンの検討する
1つ目は、複数の住宅ローン商品を比較・検討することです。
住宅会社や不動産会社が提携する住宅ローンをすすめられることが多いですが、それだけで判断しないほうがよいでしょう。
住宅ローンで迷った場合は、複数の住宅ローンの審査を通し、融資が実行される月の金利状況をみて決める方法もあります。
金利は毎月変わる可能性があり、適用金利が決まる融資実行月に最終判断をすることで最も有利な住宅ローンを選ぶことができます。
(住宅ローン契約時に金利が決まる金融機関もあります)
元金均等返済を選ぶ
返済方法には「元利均等返済」と「元金均等返済」があります。
元利均等返済は、毎月元金と利息を均等に返済する方法で、毎月の返済額が一定です。
元金均等返済は、元金を毎月均等に返済していく方法で、元本が多い当初の返済額は高くなり、徐々に返済額が減っていく返済方法です。
住宅ローン審査では元金均等返済の方が厳しくなりますが、同じ条件で完済した場合、元金均等返済の方が総返済額は少なくなります。
ただし、元金均等返済は、変動金利において金利上昇時に5年間返済額が変わらない、125%以上返済額が増えないといういわゆる5年・125%ルールが利用できませんので、返済負担率がそれほど高くない方におすすめです。
金利交渉する
金融機関、審査の状況によっては金利交渉する方法があります。
審査的に借入する人の属性が良い場合、複数の住宅ローンを検討し競合させることで金利交渉がしやすくなります。
特に、地方銀行などは比較的柔軟に対応してくれる傾向にあります。
まとめ
ここまで住宅ローンのリスクと返済額を最小限にする方法について解説しました。
ここ20年変動金利の基準金利は低水準で移行していますが、だからといって今後も上昇しないとは限りません。
まずは、資金計画で借入金額に無理がないか確認することが必要です。
そのうえで、金利が上昇した場合のシミュレーションもしながら、金利タイプや住宅ローン商品を決めるようにしましょう。
是非参考にしてください。